号外!
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9月17日CD「伊武のすべて」発売開始。
と言う事で、その2枚組アルバムに収められた名曲 「子供たちを責めないで」のいくつかの想い出。
この曲。10万枚以上売れてしまった。 当時、ラジオからうんざりするほど流れていた。 新聞、雑誌の取材も随分あった。 芸能方面より社会面の記事が多かったと記憶している。 殆ど同じ質問からインタビューが始まった。
「イブさんは、ほんとに子供が嫌いなんですか?」
そうです。嫌いなんです。 という答えを期待していたんだろうな。
アルバム「スネークマンショー」で多少名前が売れて、 ソロアルバムを作らないか、という話になったんだ。 どんなものがいいだろうね。 あの時は子供が生まれて間もない頃で、勝手放題他人の 迷惑お構いなし唯我独尊で生きてた俺が、 授かった我が子をまじめに育てるには・・・ と、日々自問自答していた時期で
「子供をテーマに何か出来ないかな?」
というのがきっかけで出来たのが A面「子供たちを責めないで」 B面「パパと踊ろう」 このB面は、実際に愛する娘の声が入っているという 親馬鹿丸出しぶりが懐かしく笑えるが、あの当時は
「よし、A,B両面でひとつのメッセージが出来た」
と、自信を持って世に問うたシングルだった。 が、A面だけが持て囃されてしまったんですね。
「子供たちを責めないで」がヒットチャートを駆け上る。 ここで大問題が起きてしまった。
そろそろ、テレビに出て歌いましょうか。
「えっ、でも、だって・・・無理でしょう・・・歌うと言っ ても語りだし、後半はテンション上がってほとんど叫 んでるだけだし、オケに合わせるだけでも難しいのに ・・・歌詞覚えるのも大変だし・・・あの曲って、一 度歌うと声がガラガラになって次の日に声帯が使い物 にならなくなっちゃう・・・というのも考えて頂かな いと、何回もリハーサルやるのは無理だから・・・と 言って、やらなければ滅茶苦茶なことになるし・・」
という俺の不安と悲痛に満ちた心の叫びは無視され、 「子供たちを責めないで」売り上げ向上プロジェクト・ チームと共に戦略会議が開かれ、厳選した結果 次の三つの番組で歌う事が決定された。
生放送の「夜のヒットスタジオ」なる音楽番組。 「俺達ひょうきん族」というバラエティ番組。 大阪で制作している、当時若者達大人気のバラエティの 「鶴瓶タクシー」というコーナーで鶴瓶さんと絡む。
で、三つの番組に出演した。 遠い昔の事なのではっきりしたことは覚えていない。
鶴瓶さんと絡んだ番組は、内容の記憶がまるで欠落して いる。師匠の笑福亭松鶴が大好きだった。その弟子とい うので会うのが楽しみだった。現在のようにひっぱりだ この鶴瓶さんは、まだ大阪ではブレークしてたが、東京 に進出する前の、勢いのある若手芸人のひとりだった。 髪の毛も長髪だったような。この時、初めて御一緒して こいつは絶対馬鹿売れするな・・・と予感したのは覚え ている。感が当たった。
「俺達ひょうきん族」は、この番組が始まった当初、ナ レーターで出演していた事もあるし、日本製モンティー パイソンになるかも、と期待していたパロディ番組で、 その中に(ひょうきんベストテン)という独断と偏見に 満ちたコーナーがあり、「子供たちを責めないで」は、 突然ベストテン入りして、5位、4位、3位、2位と毎 週ランクを上げて放送された。ただし、番組の中で実際 に歌っていたのは、伊武雅刀に扮したベンガル氏。第1 位に輝いた週のみ、本人が歌うというふざけた企画だっ た。ベンガルさん、その節はお世話になりました。しか し、ゲバゲバ90分やひょうきん族のような番組を、最 近見かけないな。パロディは日本ではむずかしいのか? 当時は、この番組の笑いと、裏番組のドリフターズの笑 いが競い合っていた、という良い時代だった。なかでも ビートたけしの毒を含んだ笑いが出色であった。その北 野たけし監督の最新作「アキレスと亀」に出演出来たし 長い事芸能生活を続けてると色々あるもんだ。
さて、「夜のヒットスタジオ」である。 真面目に、ちゃんとした歌番組で、しかも生放送。 ゴールデンタイムの夜10時から、吉村真理・井上順の 司会で、本物の歌手が出て来て、生バンドで歌っちゃう という、絵に描いたような正統音楽番組だ。 本番当日は、相当緊張していた記憶がある。 逃げ出してしまいたいと思った記憶がある。 途中で絶句してしまい、しどろもどろですごすご引き下 がり、芸能界に別れを告げる事になるかもしれないとい う妄想に駆られた記憶がある。 始まるまでは。 番組が始まった途端、あらゆる不安は消え去り、実に気 持ちいい、ハイテンションのご機嫌な俺がいたのである。 これは、全国のテレビの前の視聴者に結構インパクトを 与えたぜと、心地良く興奮した俺がいたのである。 この際だから、音楽番組に軒並み出て歌いまくったら良 かったんじゃねぇの、と思う俺がいたのである。
冷静に振り返ってみよう。 一生に一度の狂喜乱舞の夜を。
まず、リハーサルがあった。 当時は四谷にあったフジテレビの広いスタジオにセット が組まれ、ひな壇に並ぶオーケストラの面々。 ダン池田とニューブリード。 ダン氏の指揮棒が振り下ろされ、イントロが始まった。 DANDAKADADADADANDAAKADADA DADA−NDADARADADA−N・・・・ あれ、テンポが少しのろいな。 指揮棒を振るダン氏を見ると ・・・ナンダこの曲は、ダレダこの若造は、という感じ で、たんたんとタクトを振っている。 「この野郎、俺を知らないな、知る訳ないか、上等だ」 俺の闘争心が燃え上がる。
子ーどーもはーきらーいだー(実際は英語です)
バックコーラスの女性達が歌い上げる。 「このテンポなら、相当ゆっくり語り始めないと・・・」 dadandadadadadaaaaan
わたしは 子供が きらいです 子供は 幼稚で 礼 儀知らずで 気分屋です
「いい感じだ、やっぱ、生バンドは気持ちいい・・・」
前向きな姿勢と 無いものねだり 心変わりと 出来心 で生きている 甘やかすと 付け上がり・・・・・
と、実況していると切りが無いので。 まあ、何とか、是無事にリハーサルを終えた。 他の歌手のリハーサルの間、控え室で待機。 いささかの不安と緊張で、落ち着かない。 雑談していても、心はどこか上の空。 差し入れの菓子類をやたら食べまくり、コーヒーを飲み、 煙草を吸い、水を飲み、うがいしたり、と。 スタッフの一人が控え室に入って来た。 「ダンさんが、あの曲面白いねって受けてましたよ」 その一言で、気合が入る。
本番15分前。 メイクを済まし、衣装に着替える。 オープニング登場の衣装として選んだのは アストンボラージュの皮のジャケットとパンツ。エイリ アンを思い浮かべるような近未来的デザイン。 歌う時は、衣装を変えて やはりアストンボラージュの、鮮やかな赤の上下。 当時としては相当個性的なデザインだったろう。 「伊武ちゃん、頑張って」 「えっ、あ、う、うん・・・」
本番。 「本日のスペシャル・ゲストは・・・と言って伊武さん を呼び込みますから、それまで、ここで待機してて下 さい」 と、スタジオの隅に案内された。 「本番、1分前です」 フロアーに声が響く。 凄い。派手だ。カラフルな夥しい数の照明がセットに降 り注いでいる。輝くライトを浴びてひな壇に居並ぶのは どれもこれもテレビで何度もお目にかかっている有名な 歌手ばかりだ。場違いだ。俺だけ浮いている。人種が違 う。生活、趣味、家庭環境、食生活、全てがまるで違う 方々が、街じゃ歩けないようなファッションを身に着け て、幸せ全開の笑顔で並んでいる。リハーサルと全然違 うだろう、これは。これが噂の「夜のヒットスタジオ」。 夜ヒットだ。本物だ。 と、興奮しながらも、実は、その時出演していた歌手を ほとんど覚えていない。 おふくろさんでお馴染みの森進一。 人気絶頂だったナントカ隊。 さらに日本中が認知していたカントカ・トリオ。 あとは・・・忘れた。 しかし、 なんと、 その中に 都はるみさんが・・・・・・・いたのである。 俺の女性ボーカル・ベスト3は ダイアナ・ロス テレサ・テン 都・はるみ なのだ。 番外として、ゲンズブールのジュテームでデュエットして いるあの女性(ジェーン・バーキンだと思うが、あるフラ ンス人に違うと言われてから自信がない)の声がたまらな くいいんだよね。は、兎も角として 俺の魂を揺さぶる3人の歌手のひとりが、目の前にいる。 なんという幸福。なんという神のお導き。 「本番」 オープニングテーマ曲が演奏され、司会の二人が登場。 出演歌手が、次の歌手の持ち歌をワン・フレーズ歌って、 バトンタッチして全員が紹介される、お馴染みの始まり。
「本日のスペシャルゲスト・・・イブマサトさんです」
よ、呼ばれた。マサトじゃない、まさとうだ。歩き出す。 フロアー中央に立つ。ライトが眩しい。 司会の井上順が俺のいでたちを見て 「きょうは此処までバイクで来たんですか・・・」 と、ねぼけた突っ込みをいれやがった。この男、グループ サウンズ時代から面白くもなんともねぇボケかましてた。 このレベルの低い一言で、俺の緊張の糸が一気に解けた。 噛み合わないやりとり。 「では、イブマサトさんには後ほど歌って頂きましょう」 司会の吉村真理に促されて、ひな壇の歌手達の間に座る。 最初の歌手が登場して歌いだす。 居心地が悪い。 俺の出番は後のほうだ。 それまで座ってなきゃあなんねえのか。 ひょいと横を見ると、数人挟んだ場所に都はるみさんが座 っているではないか。 俺は、他の歌手をそっちのけで密かに彼女を盗み見ていた。 はるみさんは、隣りのごつい顔の男と小声で話している。 なんだアイツは。 あっ、岡さんだ。 今日のはるみさんの歌は、岡さんとのデュエット曲だった。 浪速恋しぐれ・・・作曲も岡さんだったはずだ。 芸のぉためぇなーらー 女房も泣かすぅー・・・と 一番は、岡さんがソウルが似合いそうな渋い声で歌う。 二番は、はるみさんが歌う。これが、たまらない。 そばにぃ私ぃがー付いてなければぁー 何もぉ出来ないぃ この人やからぁー・・・・・。 言ってもらいたい。俺の耳元で、囁いてもらいたい。 何人かの歌手が歌い終わり、CMタイムになる。 その間を利用して、そそくさと岡さんの背後に移動する。 「あ、始めまして、浪速恋しぐれ、聞いてます、いい歌で すよね、最高ですよ」 まるでミーハーだ。ただのおっさんだ。 岡さんの、あっどうも、という渋い声を聞きながら、目線 は、しっかり都はるみさんの方を捕らえている。 そのはるみさんが、優しく微笑んで俺を見た。 目が合った。1メートル以内の距離で。 もういい。これだけで、ここに来た甲斐があった。
スタッフの合図で着替えに戻る。 いよいよ俺の出番だ。 ふたたびスタジオに入る。 フロアーディレクターがキューを出す。 前奏が流れ出す。 俺は、スタジオ中央に設えた大統領の演説台のようなセッ トに向かう。 あれっ、テンポがリハーサルと全然違う。早い。 思わず指揮者を見る。 ダン池田が、笑顔を浮かべ、派手なアクションで指揮棒を 振っている。 おい、冗談じゃないぞ、リハーサルどうりやったら歌詞が 足りなくなっちゃうぞ。
俺は歌った、いや語った、叫んだ。 何かに魅入られたように。憑依されたかのように。 歌の山場にさしかかる。 カメラが目の前にグイっと迫る。 カメラに向けて言葉を吐き出す。 演奏がリズミカルに盛り上がる。 合唱団がエンディングに向けて歌い上げる。 俺のテンションは限界点を越えている。 思わず壇上に飛び乗る。 絶唱する。
誰が何といおうと、子供はきらいでああああああああ。
終わった。 全身の力が抜けた。 拍手が聞こえる。 出演者の方に目をやると、唖然とした顔がある。笑い狂っ ている奴もいる。 その中に、穏やかな笑顔で俺を見つめる 都はるみさんがいた。
「子供たちを責めないで」に纏わる当時の思い出だ。 あの時は、切実に思った。 歌手っていうのは、いいなぁ。 舞台を、その場の空気を、独り占め出来る。 役者にはない魅力だ。 しかし、である。 大変な稼業だ。 常にヒットを飛ばさないと、忘れさられる。 という最大の理由で、歌手になろうなどという大それた 考えを諦めて、役者稼業を続けている。 ただ、あの時の数ヶ月は蜜月だった。 初めてのソロ・アルバム。 いろいろな人に曲を書いてもらい、かなりな実験をした。 プロのミュージシャンではないからやれた事もある。 ひとつの曲で、いろんなテイクを録ってみたり。 河口湖スタジオ。 これ、外で歌ってみようか、虫の声の中で・・。 色々な人との、様々な冒険が、懐かしい。
是非、聞いてみて下さい。 「伊武のすべて」を。
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Date: 2008/09/08(月)
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