2008年年頭インタビュー
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2008年年頭インタビュー 場所:梅が丘・酒処「K」
ー伊武雅刀さん今年もよろしくお願いいたします。さて 今年1回目の更新となりますが・・・
うーん。別に年改まったからと言って、何がどうこう なるわけじゃないんだけどね。 2008年ホームページを開始するにあたり一言言って おきたいことがあるんだ
ー決意表明でございますか。
ホームページやめたいなと。もう面倒くさい。(笑)
ー(無言)
と言いながらも、まぁ書くんだけども。
ー≪笑い≫ いきなりですが今年はラオスに行って来ました。今年は ラオスから始まる。さて、ここで問題。 ラオスというと何処でしょう。ラオスシチリア物語、 あれはカオスか。はいどこでしょう。
ーコンブの有名なところが、たしかラオスじゃございません でしたか?
あれは羅臼。しかも日本。北海道。肉厚で最高の昆布が… そんなことは兎も角…ラオス。タイ・ミャンマー・ ベトナム・中国・カンボジアに囲まれている山岳民族の国。 なんつったって世界で貧乏な国を3つあげろと言われたら ラオス・バングラデシュ、そしてうーんよく知らないけど アフリカのどっかの国だろうね。 アフリカで貧乏な国はもっとあるかもしれないけど とにかくアジアの中では1・2を争う貧乏国。 ラオスには日本から直行便がない。ラオスに行きたいなと 思っても簡単に行けない。まさに秘境。 それだけで、アジア好きとしては燃えるでしょう。 まず、バンコクに必ず一晩泊まらなくてはいけない。 そもそもバンコクというところは・・・バンコクを語り だすとまた長くなっちゃうからやめよう。 えー、ラオスに行く人に言っておきますが、 バンコクに一晩泊まらなくてはならない。 で、その場合、2つの選択肢がある。 空港に隣接した高級ホテルか、中心地に行ってホテル を予約する。 普通は市内のホテルで一日余分楽しむのもありだ。 ハッポン通りが呼んでいる。でも、翌日の朝早い出発便を 考えるとなぁ。ましてバンコクと言えばあの忘れもしない 喧騒とした混沌とした車の排気ガスの中心街。 “わずか一晩のために”と考えるとね。そしてもう一つ。 数年前と決定的な違い、それは…世界一の国際空港になって いたこと。この新空港、イギリスのヒースローなんて 目じゃない。広い。乗り換え大変だぞって感じ。 これは想定外、乗り遅れたらどうすると思って。 市内に泊まるのは止めた方が無難だと考えた。 で、翌朝7時に起き、ホテルから250メートル歩いて、 国際線の…おい質問ないのかよ。 俺ばっかり喋らせて。何故、ラオスにしたんですかとか。
ーなんでラオスにしたんですか?
そのまんまだな。アジアを散々旅した俺としてはね、 行ったことのない国がミャンマーとラオスだけなのです。 今ミャンマーはあれだろ。坊さんがデモしたりで巻き添え くっても困るし。だからラオス。 もう一つは去年、ある創作着物の人と知り合って 着物風コートを作ってもらったんだ。 そのときいろんな生地を見せて貰ったんだけど、 おっ、これいいじゃないと目を引いたのが、泥染めされた ラオスの生地だった。 泥染めの技術は沖縄などにもあるんだけど 国内で着物作ろうとすると生地だけで相当な値段を覚悟 しないとね。石垣・西表島とか八丈島とか、伝統織物に今 ものすごく興味があって、ラオスで織られたものは安い。 日本で何百万がたぶんラオスなら数十万で買える。 そういう“コソクんちょ”な思いの元に、いい布に出会う という考えでターゲットに選んだわけさ。
ーラオスの織物の特徴をお聞かせ頂けますか。
まず全て天然。カイコから手で紡ぐ。その糸を天然の 草木で染める。色違いの糸を一本の糸に手で結んで、バタン と織る。気が遠くなるような作業。ベテランでもせいぜい 一日2センチ。それを4歳くらいから初めて、 たぶん20歳くらいで引退。目が悪くなるんだろな。 膨大な労力と全て天然、一切“化学”が入っていない。 そういう布を見たかった。日本にもあるけどさ。 やっぱり高くなるわけ。 そうすると、もったいなくて普段使いできない。 俺は農作業とかで着たいわけよ。土の上に座ったり、 草の上に寝転がったり。現地の人は汚れたら自然の水で ビシャビシャ洗う。化学洗剤とかに弱いんだ。 俺らの生活とは逆だろ。はい、ここで布の話はおしまい。 人の話を寝ながら聴くな。
ーいえ、あの…それでラオスではどのように すごされたのですか?
東南アジアに行って何が楽しみかというと、果物の旨さ。 オレンジとかバナナとかパイナップル。 バナナなんか、木に熟しためくるめくスイーツなのが 売っている。市場に行って、バナナを指して、1ドル札を 出したら、えっこんなに!と、びっくりするくらい買える。 それと忘れちゃならないオレンジとライム。 それをホテルに持ち帰って絞る。 よく言われる“海外では水に注意”。でも人間、 ミネラルウォーターだけでは飽きるし、決して美味しい もんじゃない。だが生ジュースはどこで飲んでも おいしいんだよね。天然果汁100%絞りたては。 そのまま飲んだり、ウォッカで割って飲む。 バナナといえば沖縄に島バナナというものがあるんだけど、 これが旨い。しかし高い。那覇の牧志市場あたりで 売っているのは東南アジア産が大半。中々本物の島バナナに 出会えない。その偽物をどう見極めるかどうかが 人間の生きてきた長さと経験値なんですよ。
ーほぉ興味深い話ですね、秘訣を教えて頂けますでしょうか
まず綺麗すぎるのはウソっぽいな。安いやつも論外。 例えば市場でおばちゃんに“島バナナ?”って聞く。 すると“しまばななさぁ〜”って言うわけ。 “ホントに島バナナ?フィリピン産じゃないの?“ ってもう一回念を押すと少し間があってから おばちゃんニヤっと笑う。沖縄のおばあはしたたかですよ。
今や島バナナは本当に手に入りにくい。 去年は西表島の商店街で見つけてむさぼり食いました。 それがラオスだと簡単に買える。ありがたいことです。 あと沖縄で高いけど旨いのはアップルマンゴー。 ほっぺた落っこっちゃう。グレードのいいやつは 那覇では一万円で2・3個しか買えない。 今やいろんな所で作ってるな。アップルマンゴーは旨い。 バリ島ならマンゴスチン。ドリアンが王様なら マンゴスチンは果物の女王様といわれているんだよ。 東京で見たら1個800円。忘れもしない新宿 「T野フルーツパーラー」十年前。一個800円の値札に 思わず仰け反った。マンゴスチンは紫色で直径7センチ くらいの大きさ。いや2センチくらいの厚い殻に囲われて いるから実質5センチくらいだな、白い果肉の部分は。 今では冷凍輸送が発達してるから、かなり安く買える だろうけど。 アジアではそういった果物が実に安い。しかも天然の完熟 ものだ。農薬も防腐剤もかかってないし。 そういえばラオスの市場で“マンゴー事件”ていうのが… なんだよ、寝てんのかよ。
ーあー、マンゴー。はい、マンゴーでしょ。とても 興味深いですねぇ。もし差し支えなければ、 その「マンゴー事件」について詳しく教えていただけ ないでしょうか?
ラオスではドルとバーツ、そしてキップという 3種類の通貨がある。ある日、朝起きて霧にけむる道を てくてく歩いて、市場へ行った。みそ汁に入れるネギと ミネラルウォーターを買おうと出かけた市場。 果物売り場でバナナも1房買っておこうと、身振り手振りで 旨そうなやつをくれと値段交渉。 “キップ”が無かったので、1ドル出す。 言葉はわからんけど、首を振られたらもう一枚出せば いいやぐらいの気持ち。するとおばさん札をじっと見て 考えて、慌てて近所の店へ走っていく。 ようするにお釣りが無くて集めにいったわけだ。 で、俺の手元にお釣り数万キップが来ちゃったわけ。 ラオスに着いた翌朝だから、貨幣価値がよく分からない。 大きな市場でいろいろな物が売られている。 ふと見ると17.8才の小娘がマンゴーを売っている。 マンゴーか。おネエちゃんにマンゴーを指しお釣りで貰った 全てのキップを目の前に出した。するとおネエちゃん 首を横に振る。 これじゃマンゴー買えないのかと、隣に置いてあった ブドウを指す。 するとはさみで7粒くらいチョキンと切ったのを目の前に かざした。 え?これだけ? このネエちゃん、愛想が無いし小生意気な態度で商売っけ まるでなし。 渋谷にいるような“ジジイが何言ってんだよ、関係ねぇよ” って感じのネエちゃん。こいつボッてるな、 観光客を馬鹿にしてんなと考え、ポケットから1ドル札 一枚出す。するとマンゴーを2つビニール袋に入れて 差し出した。 ???そんなに高い物なのか? ホテルに戻ってそのマンゴーを食べてみると、甘さが薄い。 カンボジアで出会った感動的旨さの完熟マンゴーとは 雲泥の差。ボラれた感も収まらない。それからは 「おいしいマンゴー食べたい、いや絶対食べてやる」 と、マンゴー行脚が始まる。市場で、果物屋で、 1ドル札を出して、買い求める。 計4箇所で購入したが全部甘くない。むしろすっぱい。 あの最初のナマイキ姉ちゃんのマンゴーが一番マシだった。 人柄のよさそうな婆さんから買ったマンゴーは、 1ドルで3個だったのに、全部すっぱかった。 ラオスのマンゴーはダメだなと諦めつつ、 数日後に移動した首都ビエンチャンで、日本語のわかる ガイドさんに“マンゴー事情”を説明して、甘いのを なんとか手に入れてくれと果物屋におもむく。 「私がおすすめのマンゴーです。」と手渡された 2つの黄色いマンゴー。その夜早速頂く。 うっ、やはりすっぱい。翌朝、やんわりクレームを入れる。 「ラオスには甘いマンゴーはないのかな」 「はいあります。でも年寄りは甘い方が好きですが、 若者はすっぱいマンゴーを好んで食べます、はい」 考えてみればラオス及びカンボジアなどの国は、パパイヤを 青いうちに刈り取りサラダにするからな。 甘いマンゴーは年寄りが好むというのも合点がいかなくも ないわけで。 以上、ラオスマンゴー事件。はい、おしまい。 次は何を聞きたい?
ーほかの食べ物はどうですか?
なんだよ食べ物の話ばっかりだな。仏教国ラオスなんだ から、そのあたりの話も聞いてくれよ。 野菜は無農薬、鳥は放し飼いで、ブロイラーはない。 鶏肉は本当に旨い。どこで食べても味も歯ごたえも絶品。 高級ホテルやレストランでは、一部ブロイラー使ってる ところもあるみたいだが・・・一度あったな、気取った チキンソテー、うまくもなんともないやわらかい肉が出て がっかりした。
ーラオスは治安という点ではどうでございましたでしょうか
治安は世界でもトップレベルと言えるでしょうね。 まず物乞いがいない。これはとてもありがたい。暑い国に 行くとオープンカフェやレストランに入るでしょ。 特等席は当然一番手前の道路に面した席。行き交う人々や 町並みを見ながら。食事やビールなど飲んでいると 気持ちいい。風が心地よく吹いたり。 でもね。アジアでうっとおしいのは、すぐに物乞いが来て、 ハエのようにうるさいこと。 赤ん坊抱いたバアさんが金をせびるわ、ガキが絵葉書売り に来るわ、おっさんがにせ物の指輪差し出すわ、で 追い払うのがうっとおしい。 ラオスはその点ほとんどいない。 うーん2人くらいいたけど、あっちいけと目で追い払うと すぐ離れていった。あと、アジアを旅して面倒臭いのが、 乗り物の交渉。常に交渉しなくてはならない。 観光客、特に日本人とくればハナからボるからね。 トゥクトゥクというオート三輪の乗り物があるんだけど 結果的にはラオスでは交渉が要らなかった。 初めて乗るとき交渉したんだけど、提示された額の 半分を言ったら不機嫌な顔をしてぷいーっといなくなって しまった。失敗を踏まえ2回目の交渉。 別のトゥクトゥクに同じ提示額を提示した。しかし、 頑なに首を縦に振らないだよ。そのときは面倒くさくなり 向こうの言い値で乗ったんだけど、その後 3回目・4回目と利用するときも全く同じ値段。 どこ行ったっても同じ値段。つまり“正規の値段” だったんだ。 今までのアジアではありえない経験だったんだ。 これからどうなるかはわからないが、今のところ、客から 不当な金を得ようという発想すらない素朴な人柄が うれしい国だね。
ーラオスのホテルはいかがでしたか?
ラオスでは、トップクラスのホテルに泊まった。 最初の町、ルアンパバーンは世界遺産に登録している町 だし、時期的にも欧米人の観光客が多いシーズンの中で、 出来て一ヶ月の新しいホテルがなんとか取れたので泊ま ったのが今回のホテル。二階の角のスィートルーム。 窓から見える風景は農家。部屋からずっと農家の生活を 見てたら、懐かしいような、生活の原点を見てるような…。 朝から晩までずーっとお母さんが庭を掃いている。 その庭に、鶏はいる、豚はいる、アヒルまでいる。 一家の主婦専用の釜戸があって、その周りを日に何度となく 丁寧に掃いてる。このお母さんは、一日中なんかやってる。 庭で洗濯を干しているとか、庭で落ち葉を掃いてるとか、 庭で何か掘っているとか。つい引き込まれちゃって、その 生き生きとした動きに見とれている。それをじーっと見て いるこちらの方が、“刑務所の檻の中に入っている”感じ だった。高級ホテルに泊まっていながら…。 その夜はクリスマスだった。 本当はラオスって仏教国だからクリスマス関係ないはずだ。 でもその夜はサンタの格好をした従業員が、俺たちとか 欧米人の客を迎えてディナー・パーティーを用意してくれて いた。食べ物、飲み物、ご自由にどうぞ。 ウエルカム・ディナーというやつ。 昼間、ホテルのレセプションで 「今夜は是非出席してください」というインフォメーション 渡され、迷ったんだけど一応泊まったんだから 付き合ってみようかと参加することにした。 俺たちはイベントっていうから 外人もどきのクリスマスパーティーのノリを想像してた。 時間になったので、大広間にジャケットを着て入っていくと 他の外人宿泊客たちも壁際の椅子に座って何が始まるのかと 見ている。中央に祭壇が飾られ、その前に村の女たちが 20人ほどじゅうたんの上に座っている。村の老人も3人程 座っている。 突然、長老のひとりが祝詞のような、念仏のようなものを 唱え始めた。女達もそれに合わせて唱和し始めた。 外人も俺たちも面食らっている状況。“儀式”は進んで 今度は車座になってくれと言われ全員座らされる。やがて 女達が一人ずつ俺たちの前に座って両手首に ミサンガみたいな白い木綿の糸を巻きながら、ぶつぶつ 何か言っている。 たぶん「ラオスに来てくれてありがとうございます。 これからの人生は・・・」とか言ってるんだろうけど。 で、参加者全員の手首に意図を結ぶ儀式が終わると “さぁ皆さんディナーでも召し上がれ!”とレストランに 移動して、欧米人もみんな両手首に20本の ミサンガしたまんまディナー食べた。一応うすーく 外国の音楽が流れてたりするんだけど、合間にラオスの 民族舞踏や演奏が披露されたり、最後にはホテルの 女の子やスタッフが、一緒に踊りましょうと、宿泊客を フロアーに誘って踊り始めちゃって。 さすがに引き上げたけどね。素朴であたたかいもてなしでは あるんだけれど付き合いきれない馬鹿馬鹿しさも感じて。
ーそれはラオスのかなり地方なんですね。
だから、さっきも言ったじゃないか。ルアンパバーンって 世界遺産の町だって。小さい町でね400メートルくらいの メインストリート一本の中に全てが集まっているような。 その一本道の脇にレストランや土産物屋があって、 道をそれると無数の寺がある。小さな町に80の寺がある。 何で世界中からそんな町に白人が集まるのかっていうと、 早朝になると200人くらいの坊さんが行列をなして 托鉢をするんだよ。托鉢に加わってひざまずいて、托鉢の中 に米など入れてお布施をするのが観光の目玉らしい。 托鉢キッズっていうのを打っていて、それを坊さんに施す。 俺はそういうのはウソくさくて嫌いだから行かないけど。 大きな寺の入り口に、すずめが入った鳥かごがいっぱい 並んでる。そのカゴを買って、すずめを空に逃がしてやると 幸運が来るんだと。ラッキーバードだって。下らないけど うまい商売だ。その程度じゃ可愛いもんだ。 でもね、あるとき夕飯を食いに出かけたら途中で すっかり暗くなっちゃた。薄暗い中にろうそくの明かりが見 える小さな寺があった。ゆらゆらゆれる炎を頼りに近づく。 中をのぞくと黄金の仏像がこっちをむいている。 あっちはみんな黄金の仏さまなんだけどね。 あの金ピカの仏像というのはどうも好きになれない…それは 兎も角、仏像の前に7人の坊さんが瞑想をしている。 真っ暗闇の中にあとは誰もいない。無音の世界。 思わず靴を脱いで、本堂に入って、坊さんの後ろに座って じーっと30分くらい黙想した。蚊に刺されるんだけど、 その世界に入っちゃって、かゆいんだけど手が動かない。 外に出たら3箇所ぐらい刺されてて、頭のてっぺん触ったら ぷくっとふくれてた。空を見上げたら、絵に描いたような 満月が、まばゆい光を発していた。素敵な街だったね。 女の子が夜歩いても大丈夫だろうな、たぶん。 治安の良さでいったら出色の国だと思う。ルアンパバーン、 世界遺産の町。仏に守られた静かな町。はにかみの町… おい!(間)こいつ寝てやがる。
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Date: 2008/01/16(水)
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